あなたのゲームを中国でリリースするには(前編)

あなたのゲームを中国でリリースするには(前編)

世界で最もゲームユーザーが多い国、中国。そこには驚くほどの市場規模と莫大な利益が潜んでいる。
しかしいざ中国に進出しようとするとなると、多くのハードルがあなたを阻むだろう。検閲ポリシーによるジャンルの制限、煩わしい手続き、長い審査期間、そして全く未知なマーケット環境。それらを乗り越えたとしても、経済・方言・民俗文化などの地域格差が激しく、あなたの培ったマーケティング手法が必ずしも武器になるとは言えないだろう。

今回の記事では、中国でのゲーム商売事業を分析し、デベロッパー・パブリッシャーにも関わらず、よりわかりやすく具体的に中国進出の方法や、中国パブリッシャーを選ぶ基準などを紹介したい。ホットなトピックとして、ここ数ヶ月間に中国市場の変化・政策の更新もあったのでもちろんその辺りにも言及しておこう。
以前の文章「中国のパブリッシャー事情」についても一度読んで頂ければ、より理解は深まるだろう。

問題は波のように押し寄せる

中国でゲームをリリースする方法はざっくりと三つ存在する。一番簡単な方法はSteamで中国エリア向け配信すれば良い。この場合は、ローカルマーケティングする手段がないため、必然的にゲームのクオリティだけで勝負することになる。

2つ目の方法は中国ローカルのパブリッシャーと手を組みSteamで中国エリア向け配信するという手段だ。パブリッシャーは中国市場向け最適な販促プランを制定し、政府の審査手続きも代行してくれるので、手っ取り早く利益を回収できる。ただしもちろんスマホゲームはこの方法は使えない。iOSとAndroidゲームには政府のパブリッシングライセンスは必ず必要だからだ。特筆すべきこととして、今後はSteamグローバルの中国エリアとは別に「中国版Steam」というものが誕生し、今年年末から中国の大手ゲーム企業完美世界(パーフェクトワールド)によって運営される予定だ。現段階では不明点が多く、パブリッシャー達もまだ様子見の段階と言えるだろう。

3つ目はパブリッシングライセンスを正規に取得した上で、Steamだけでなく中国国内の販売プラットフォームも経由してリリースする方法だ。となると当然だが、以上の作業を完遂することはかなり大変で、中国現地で法人を設立してライセンスを申請することも極めて面倒なので、中国のパブリッシャーと契約しなければならないと考えるべきだろう。その場合、政府から頻繁に修正要請が発生し、3〜6ヶ月ほどの間、修正作業が発生することを覚悟する必要がある。

パブリッシングライセンスに関しての詳細は前回の記事で紹介したが、現在ライセンスごとに20〜50万円ほどの審査料が発生する。また、審査提出用の中国語版ゲームパッケージ・マニュアル・動画・会社情報なども提出する必要がある。政治的・暴力的・性的な表現はそもそも禁止され、ゲーム内容により修正できないのなら、ライセンスは取得できない。

ただし、今年の終わりから政府の方針変更によりライセンスの申請を中止し、来年からは年間のゲーム輸入本数を制限するという噂が囁かれている。本件に関しては筆者も中国国内のパブリッシャーに問い合わせてみた。それによると政府はこういった噂を公式確認はしていなく、申請手順もこれまで通りとなっている。とはいえ審査待ちのゲームは数千本超え、ライセンス入手まではいつもより長い時間かかっており、迅速な対応が望まれているのは間違いない。ポリシー変更の噂はこのような状況から推察されて生まれたのだろう。この件に関してしばらく様子を見るしかないが、すでに国内企業から激しい反対意見を受けており、筆者は通過する可能性は低いだろうと考えている。

ゲーム業界がまだまだ成長期の中国でリリースすることは面倒だと思うかもしれないが、このパブリッシングライセンスは自分を守るためのものだと考えても良い。中国では海外の正式な出版物はライセンスを取得しないと、法律上著作権が守られない可能性があり、内容により販売禁止(アクセス遮断)になる可能性もある。

「返校」のような政治的・暴力的な表現があるゲームはライセンス取得が難しいだろう

また、ローカライジングも相当な費用かかる。通常、日本語を中国語へ翻訳する際、1000文字ごとに4000円くらいが現在の相場と言われる。10万文字のRPGゲームなら40万円で約一ヶ月の期間を要する。
諸手続きは非常に煩わしい作業であり、中国のデベロッパーでさえ完遂は困難だ。この点だけでもパブリッシャーは非常にありがたい存在だと言える。
では、中国で、自分のゲームにふさわしいパブリッシャーを見つけるのはどうすればいいのだろうか?

パブリッシャーをどのように見つけるべきか

パブリッシャーを探すことが容易ではない理由として、比較できる資料が存在せず、どこから探せばいいか分からないということに尽きるだろう。もちろん言語の壁もあり、パートナーシップを結ぶまでは非常に大変だ。

幸い、今年から中国国内のパブリッシャーは積極的に海外進出し始め、海外のデベロッパーとの繋がりを固めて優秀なゲームをどんどん輸入している。もちろんコストが高いので、各社それぞれ自分の手段を使っている。例えば国内大手アンドロイドプラットフォームTaptapの親会社、心動ネットワークス(X.D. Networks)は日本での出展頻度を上げている。日本語・英語得意な社員も多く、BitSummitや東京ゲームショウなどのイベントでは簡単にコミュニケーションできる。
インディー大手CoconutIslandは日本国内のPlayismと提携し、業務を展開している。それから元テンセント・完美世界メンバーたちが独立して開設した新規パブリッシャーGamera Game(ガメラゲーム)は中国国内のオンライン・オフラインのイベント運営が得意で、東京では海外在住の社員が開発者をサポートしているなどアドバンテージを持っている。
また、それ以外の小規模パブリッシャーも若干存在するが、中国のWeibo、WeChatなどのソーシャルサービスの活用ができないと、検索・連絡することが難しいと言える。

テンセントQQも中国一番使われているチャットアプリ

無事に中国のパブリッシャーとコンタクトが取れたのなら、「版号」、つまりパブリッシングライセンスの取得を行うことになる。政府の認証をクリアした正規パブリッシング機構でないと、ライセンスの申請もできないので、現在中小インディーパブリッシャーは大手出版社と提携する形が一般的だ。中には繋がりがなくて申請できないパブリッシャーも存在し、Steamのみのリリースとなるケースもあるので注意しよう。現状、Steamストアの中国エリアはパブリッシングライセンスを登録するシステムが存在せず、そこだけはライセンスが不要だ。ただ、やはり審査期間中にゲーム内容の修正要請が大量に来ることが常であり、都度デベロッパーは対応しなければならない。かなり時間と精力を消耗する作業なので心の準備をしておいたほうが無難だろう。

前回の記事でも紹介したように、審査の基準は現在でも詳細不明であり、その多くは修正要請が来たら修正して提出という流れの繰り返しだ。つい最近国内のパブリッシャーから収集した注意点によると、まずゲーム内の文字は中国語のみにしておくべきとのことだ。制作スタッフの名前のみ英語でもOKだが、それ以外のUIやシナリオまで、全ての英単語・アルファベットは禁止だと考えた方が無難だ。無理矢理でも、中国語と同じ表現の単語・文字で入れ替える必要がある。そしてゲームの起動画面には健康警告を追加し、オンラインゲームであれば未成年者に対して政府のデータベースをアクセスしてID番号で本人確認を行い、日々のゲーム時間を制限するシステムを導入することが求められる。
翻訳に関しては一般的にデベロッパー負担・パブリッシャー負担どちらのケースも考えられるが、ゲームのクオリティ次第という話もよく聞く。
パブリッシャーと交渉の余地がある部分と言えよう。

選ぶべき中国のプラットフォームとストアは?

ゲームが完成し、パブリシングライセンスも無事取得できたらいよいよリリースだ。リリースの前にウォーミングアップという段階があるが、それは後のパブリッシング手法の部分で説明する。
現在中国国内で政府の経営許可を持っているPCゲームのストアはテンセントのWeGameのみである。中国のインディーゲームだけでなく、「戦場のヴァルキュリア」や「Cities: Skyline」などの人気ゲームもカバーしている。テンセントは自社の複数のサービスを一元管理しており、主要サービスであるQQやWeChatの影響でWeGameユーザー数も好調に増えている。ユーザーの多くはオンラインゲーム・e-Sports・Roguelikeなどのジャンルを好み、Steamのユーザーと棲み分けている。

現段階ではWeGameのゲーム数は少ないので、リリースができれば注目を集めやすいというメリットがある。ただし、テンセントは内部審議があり、ジャンル・ボリュームなどある程度の基準を満たしているゲームだけが契約でき、パブリッシングライセンスの取得も必須だ。ちなみに、WeGameグローバル版の運営はすでに準備中である。こちらはライセンスが必要なく、海外でも使いやすい環境を作っているので今後期待ができる。

続いてはSteamについて。現在中国においてライセンスなしでリリースするなら、Steamは唯一の選択肢となる。中国でのユーザーは5000万人を超えた。ただし、ユーザーは海外サーバーから購入することもできるので、特殊な理由がない限りグローバル版Steamと同時発売すべきだろう。
多少主観に寄った意見かもしれないが、シミュレーション・経営・ホラー・カードゲーム・サバイバルなどのジャンルは中国でより良い売り上げ実績があるように思う。

ではモバイルゲームの状況はどうだろう。世界的にはGoogle PlayとiOS App Storeがメインだが、中国ではGoogle Playが存在せず、スマホのブランドで分けられるケースが多い。なぜなら中国ではアンドロイドスマホが山ほど存在し、それぞれのターゲットユーザーも異なっているからだ。例えば、Oppoのスマホは高度な自撮り・写真編集機能が内蔵されて女性ユーザーの心を掴まえている。女性向けのゲームならOppoのストアでリリースするなら効率的だ。一般的なユーザーにも届けたい場合はTaptap・テンセントアプリストアなど、ブランド依存ではないプラットフォームを選ぶべきだ。こういったストアが主要なものでも20種類以上存在し、SDKを介した移植はとても大変な作業だ。もちろんパブリッシャーはその助けとなるが、ソースファイルの提出が必要となる。
iOSなら移植の手間はかからないが、前述したパブリッシングライセンスの取得問題があり、結局リリースまで時間がかかることを考慮しよう。

リリースはほんの始まりにすぎない

複雑な市場環境、煩雑な手続き…様々な問題を乗り越え、やっとリリースできたゲームには、新しい挑戦が待ち構えている。
パブリッシャーは一体どのような仕事をしているのか? プロモーション手法は? 果たして海外のゲームは中国でヒットするのか?
後編ではそのあたりを語る予定だ。

 後編に続く 


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Made with Unity - 2018年10月3日