インディゲーム開発は本当に天国か?映画「We are Alright」

インディゲーム開発は本当に天国か?開発者のリアルな姿をエモーショナルに描く映画『We are Alright』

2019年3月18日から22日にわたり、アメリカ・サンフランシスコで行われた「Game Developers Conference (GDC) 。世界から27,000人のゲーム関係者が集う世界で最大規模のゲーム・カンファレンスだ。そこで行われたAmazonのセッション「Video Games as Punk Rock」では、Amazon Game Studiosのディレクター、Rich Hilleman氏が、インディゲームが数多く台頭するこの時代を、パンク・ロックの歴史になぞらえて語った。

Rich Hilleman氏

パンク・ロックは、ビジネスに支配された音楽業界への対抗だ。NYを拠点とするパンクバンド「ラモーンズ」は、メジャーレーベルに相手にされなかったので、レコードを出すことができなかった。そこで彼らは、DIYで録音し、無名のアーティストが出演するライブハウス「CBGB」でライブを行い、ファンを獲得していった。最終的に、彼らの名前はパンク・ロック史に燦然と輝いている。

インディゲームはパンク・ロックか?

ゲーム業界では、PCのスペックがパワフルになり、無料のゲームエンジンなどが広まることで、いまや小規模なチームでもAAAタイトルに引けを取らないようなゲームを作ることができるになった。そうしたインディーゲームは、Twitchなどで配信されることでレコード店で販売されるような宣伝効果を得ている。クリエイターは自由を獲得し、退屈な仕事を辞め、やりたいことで生計を立てられるようになった。だいたい、それが「インディーゲーム」についてまことしやかに語られている神話だ。

今回紹介する映画『We are alright』は、そうした神話の裏側をリアルに描く作品。GDCのコンテンツの一つ、「GDCフィルムフェスティバル」にて上映されたものである。

リリース前の緊張

大きな会社で働くことを辞め、はじめてのゲーム『LICHTSPEER』をリリースすることを決めたベルリン/ワルシャワ在住のBartekとRafal。このゲームはドイツが舞台のアクションゲーム。Unityで開発されており、80年代のテイストと、込められたブラックユーモアがスタイリッシュなタイトルだ。映画では、リリース3ヶ月前からの彼らの緊張とストレス、そしてリリース後の展開が描かれる。

舞台はドイツのベルリンと、ポーランドのワルシャワ。友人たちで始めた小さなスタジオ「Lichthund」はリリース前の緊張に包まれていた。

プログラマのRafalは、「最初は仕事の空き時間に趣味として作っていたんだ。でもゲームショーに出展して、かなりいいフィードバックがもらえたことで、会社をやめようと思った。大きい会社だけど、あまりにも仕事が退屈で、もう耐えられないと思ったんだ」と語る。それでも、親は「そう、わかった。で、いつ仕事に戻るの?」と聞き続けてくるそうだ。

スタジオが存続するために、最低でも毎月300本を売らなければならない。インディーゲームが乱立するこの時代では、なかなかシビアな数字だ。

PS4の厳しいガイドラインチェック、度重なる発売の延期などを経て、ようやく彼らの本リリース日が決まる。パブリッシャーも決まった。投資家には、結局プログラマの兄がお金を出すということになった。

「たくさんの投資家と話したけど、家族だと安心できるから」

とその理由を語る。

プロモーションが命運を決める

リリースが決まればあとはプロモーションだ。発売と同時にメディアに掲載されたり、インフルエンサーに取り上げられることでゲームの成功の可能性が決まる。もしかしたら、Twitchのトップページに掲載してくれるかもしれない。

「パブリッシャーにとって、月に300とか500しか売れないゲームはクソだ。10,000、いや50,000ぐらい売らないと。彼らは僕らに『君たちは何もしなくていい』って言う。でもそれは本当じゃなかった。全部やってくれる神様なんかいないし、結局は自分たちでやるしかない」

彼らはあらゆるゲームメディア、ジャーナリスト、YouTuberにプレイングコードを送り、反応が来るのを待った。「すごく面白いゲームだね!ぜひ取り上げるよ!」という返事を期待して。しかし返事は来なかった。「きっと週末だからだ」「きっとスパムボックスに入っているんだ」彼らは様々な言い訳を用意して、誰からも反応がこない焦りをごまかす。

バグが見つかり、Rafalはとても神経質になる。

「Rafalは”いかに自分をストレスフルな心境に追い込むか”というワークショップを開くべきだ」

とからかわれるくらいに。しかし、いつも強気なBartekも少し弱気になっているようだ。

「ほとんどのインディゲームは失敗している。でも迷信があって、みんな自分は成功すると思っているんだ。どうして失敗するのか学ばずに、次のゲームを作ったり、すぐにやめてしまったりする。ルネッサンスの頃には芸術家を資産家がスポンサーしていただろう?でも今の時代、そんなものはないからね。…俺もきっと、失敗するよ」

彼らはその後スクリーンショットを何度も撮り直したり、マップにボタンを加えるなど重要な修正を経て、いよいよ本リリース日が決まった。

リリース日の朝、メンバーの表情は硬かった。全員が緊張している。

「でももう、やるしかないね。2年半の結果が今日出るわけだ」

Rafalは窓にたくさんの「やるべきことリスト」を描いて、ひとつひとつ潰していく作業をしていた。

「僕等はこのゲームを作るために2年半かけた。売れるか、すぐに忘れられるか、そのどっちかになる。このゲームの開発のために、友人も家族も犠牲にした。ガールフレンドだっていない。できれば人生と仕事を分けたいだけど、どうしてもできないんだ。このゲームが売れたら、僕は有名になりたい。カンファレンスに呼ばれるようなね」

目標は10,000本

『LICHTSPEER』の発売目標は1ヶ月半で10,000本。リリースすると、20万フォロワーの有名YouTuberがさっそくプレイ動画をアップした。「あはは、何よ、このゲーム!」と彼女は叫んだ。彼女はプレイを楽しんだようだが、「キャラクターに魅力がない」という意見もあった。

「まあ、Ubisoftみたいに魅力的な女性キャラクターが出てきて着せ替えできる、ってタイプのゲームじゃないからね」

そのほか、大きなブログや、3人の有名YouTuberが配信で『LICHTSPEER』を取り上げた。そして売れたのは…なんと、43本だけだった。

『LICHTSPEER』はしばしば大きなメディアで取り上げられた。しかし取り上げられるたびに、売れるのは決まって3本だけだった。結局、リリース初期には133本しか売ることができなかった。状況は2ヶ月経ってもあまり変わらない。PS4では『ディスティニー』の次に掲載され、大手ブログメディア「コタク」が取り上げたが、それでも20本しか売れなかった。

Rafalは語る。

「僕らがやったのは、胸を張って誇れる良いゲームを作って、みんなに『これってすごく良いゲームなんだよ!』と伝えるってこと。それが出来たのが良かった。でも売れなかった。それだけだ、本当にそれだけ」

結局、『LICHTSPEER』はSwitchなどにも移植され、最終的に9,000本を売上げた。

「Switchでは、ハードが発売されて初期にリリースされたから売れた。ラッキーだった」

彼らのスタジオは生き残ることができた。Bartekは彼女と婚約し、Rafalはベトナムに旅行することができた。そして人生は続いていく。映画の最後に、画面には「We are alright」という言葉が映し出される。彼らは生き延びることができた。その瞬間は、胸に熱くこみ上げるものがあった。

開発者は、人生をかけてゲームをリリースする。ドキュメンタリーが彼らの感情にフォーカスすることで、鑑賞者も共感を覚えるだろう。同じ経験をした開発者にとってはなおさらだ。ちなみに「ポーランド語のドキュメンタリーを買う会社はなかった」ということで、この映画も絶賛売出し中である。

監督のBorys Nieśpielak氏

映画『We are alright』は、Steamにて視聴することができる(英語字幕)。

映画『We are alright』

steam:We are alright
プロダクション: Borys Nieśpielak
公開日:2018年5月22日
制作国:Poland
時間:64 分

齋藤 あきこ - 2019年3月29日