2017.06.27
好きなゲームを作り続けるために、僕らは何をすべきか (前編)
大貫 真史、一條 貴彰
ACE OF SEAFOOD
Nussoft

『ACE OF SEAFOOD』のスマッシュヒットにより、ゲーム会社を退職して個人開発に専念するようになった大貫さん。
ミドルウェアの営業職から夢を追って独立した一條さん。

歩んできたキャリアは異なるものの、自分たちの好きなゲームを作って生きるために独立を選んだ二人。
彼らがいま、何を思うのか。非常にリラックスした雰囲気の中、思う存分に語ってもらいました。

(この対談は2017年1月に収録されたものです)

インタビュー: 池和田 有輔

プロフィール

大貫 真史

蟹や魚など海産物が戦うアクションゲームを個人で制作している人間。1人同人ゲームサークルNussoft代表。元ゲーム会社のプログラマーだったが、昨年末に退職し専業インディーゲーム開発者に。代表作は『ACE OF SEAFOOD』『NEO AQUARIUM -甲殻王-』など。最近ロードバイクを買った。

プロフィール

一條 貴彰

個人ゲーム作家。代表作は『Back in 1995』(Steam)。Newニンテンドー3DS™版『Back in 1995 64』開発中。インディーゲーム開発の他、小規模ゲーム開発者が活動を継続しやすい世の中作りのために複数社からGame DevRelの仕事を請け負う。現在はPlay,Doujin! ディレクターも務める。

どんなサイクルで仕事してますか?

池和田

ライフサイクルが最初のテーマなんですが、二人ともフリーランスとして普段どのように仕事されてますか?

大貫

僕は起きる時間とか寝る時間はほとんど会社員時代と変わってなくて。やっぱ、夜型にしちゃうとイベントとかのときにちょっと辛いので、それはキープしています。基本的には、起きて、メシ作って、食って、作業して、またメシ作って、寝るみたいな感じで。「その日にやれることをやる」みたいな感じですね。

一條

僕の場合はゲーム開発と同時にコンサルの仕事をしているので、おおむね一週間単位でサイクルを意識しています。今は「ニフティクラウド mobile backend」のエヴァンジェリストと「Play, Doujin!」のアシスタント、あと非公開のアドバイザリー仕事をいくつかやっています。だいたい一週間の内、1日半~2日ぐらいは自分のゲーム作りに使って、あとは仕事をする。夜型だし規則正しい生活かどうかは微妙で。フリーランス化して今2年ぐらい経つんですけども、最近は夜型を許容してもいいんじゃないか、くらいに考えていて。

池和田

人によって合う合わないあるしね。

一條

一応、朝ちゃんと起きるは起きるんですけど、午前中はプログラムはやらなくて事務処理とか単純作業をやります。昼食後は特に眠いんで昼寝とかしてます。昼寝、超大事です。僕は自由に昼寝したいからサラリーマン辞めたようなもんですから。で、だいたい午後6時ぐらいになってくると調子が出てくる。

池和田

遅いね、それ(笑)。

一條

6時から9時ぐらいが僕のコアタイム。コワーキングスペースの月額会員になって、そこをオフィスとして通ってます。だいたい月1万円ぐらいで、家から歩いてだいたい30分弱ぐらいの距離にあります。

池和田

結構な距離じゃないですか。

一條

それがいい運動になるんですよ。

大貫

散歩はいいよね。

一條

そう。朝は一切脳が起きてないんですよ、僕は低血圧なんで。PCのセーフモードみたいな感じで、「オレ、アサメシ、クウ」みたいな。脳をちゃんと起こすためにも朝は徒歩で通勤する。

池和田

会社にいるとサイクルを強要されてしまう面があるけど、それに向いているかどうかは人それぞれだよね。

大貫

僕、会社員のときは仕事でゲームを作って、家に帰ってゲーム作って、休日ゲーム作ってみたいな生活だったんで、むしろ以前の方がメリハリついてなかった。今もその延長線上ではあるんですけどちょっと他のゲームをやったりして、そのへんは変化しました。

池和田

なるほどね。でも一方で「フリーランスならではのメリハリのつけられなさ」みたいなのもあるよね。一日パジャマでいる、みたいなこともアリはアリじゃないですか。

一條

ありですね(笑)。

大貫

気が乗らなかったら温泉行くとか(笑)。

一條

そういう選択肢を残しつつも、基本はサイクルにしたがってやっていて。フリーランスだけどコワーキングスペースに「出勤」して。そこがメリハリという感じかな。

池和田

コワーキングスペース、隣で真剣に仕事している人とかいると、「俺も頑張んなきゃな」みたいになるよね(笑)。

一條

そういう環境作りは超大事ですよ。僕は「やる気を金で買え」って言っているんです。サラリーマン時代は会社近くの自習室を土日と夜帯だけ借りて、仕事後の3時間ガッと開発やってから帰るみたいな生活をしていたんですよ。周りは受験生だらけで、当時はPS Vita向けのタイトルを作っていたので、デバッグしてたりすると「アイツ遊んでるぞ」みたいな視線を感じて気まずかったりしましたけど(笑)。

一人でゲーム作るのって大変じゃない?

池和田

「一人で作ること」については? いいとこ悪いとこあると思うんですけど。

大貫

良くも悪くも全部自分に責任があるので、自分がこれで「完成。リリース!」って言えば、確実に自分の作品が出せるところです。組織になるとしがらみがあるので「できてはいるんだけど、ちょっとビジネス上の問題で出せないよ」とか、そういうのが起こるんで。そこが自分の中では一番大きいかな。僕は自分の考えた物を形にして世に出したかったんで、去年の末に会社を辞めて…ということになりましたね。

池和田

辞めたのは、何か手応えを感じたからなんですか?

大貫

まず昨年度の売上的に、会社員の給料を超えたので。

池和田

おっ!これ言って大丈夫?

大貫

全然大丈夫です。

一條

いい話だな~。

池和田

うん、いい話!

大貫

僕ちょうど30歳なんですけど、20代だったら「まだ若いから」みたいな慰めもあるじゃないですか。で、30になって、今後自分のやりたいことを確実にできるかって考えたときに、年齢に対する焦りというか。今なら独立して「考えているものは確実に出せるな」っていう判断がついたので、というところですね。

一條

僕の場合、一人で作ることのメリットは「全部を自分でコントロールできる」っていうことですね。僕は大貫さんと違って開発会社でプロとしての経験がなくて、最初から一人で作っているだけなんですけども。それと、自分が価値を信じているテーマっていうのは、一人で作りはじめるしかない、というのもありますね。僕が作ってきたゲームって開発会社では絶対に企画が通らないようなものですから。メリット・デメリットというよりそれしか方法がない、という感じですね。

デメリットはやっぱりゲームのボリュームをどうしても大きくできないことがつらくて、それは今課題になっています。基本一人で作っていますが、素材に関しては人の手も借りていて、今ちょうど作っている『Back in 1995』の拡張はデザイナーさんと契約してポリゴンモデルを作ってもらっています。

大貫

それは僕も一緒ですね。素材とかは当然発注しますし。一人で作るスタイルが好きというよりは、手段として現状最善かなというので選んでいる。手伝ってもらうことは全然アリです。

池和田

ゲームデザインに関しても?

大貫

そうですね。うまくやれる人がいたら全然やってもらいたいなと思ってます。

一條

僕の場合は世界観から作っていくスタイルですね。ゲームを遊ぶ人が、どう楽しむかというイメージから逆算して、システムに落とし込んでいく。でもストーリーのボリュームを増やすことは実は苦手で。最近はアドベンチャーゲーム的な謎解き部分を別の人に手伝ってもらうことにしました。

大貫

ボリュームを作るのは一人だとちょっと辛いですね。

一條

たとえばスタートしたばかりのUnity Connectで、メンバー募集というより部分的なところを「発注」できないかなと期待してます。

いわゆる「バズられること」を意識してますか?

一條

僕は「変にバズらないように」意識しています。プレイヤーが増えれば増えるほど幸せになるタイプのゲームはバズられていいと思うんですが…僕のゲームの場合はそうではないんですよね。SNSなどでバズって、プレイする人がめっちゃ増えても、その増えた層には僕がターゲットと思っている人が含まれている可能性が低いと思っています。僕がプロモーションするのは、このゲームをものすごく楽しんでやってくれる人、共感してくれる人を探したいから。いわゆる「バズ」で、意図しないプレイヤーさんに届けてしまってもお互いに不幸かなと考えています。

大貫

僕の場合、知ってもらう分に関しては見た目どおりのゲームなのであまり問題ないし、きっかけがあって話題になるぶんにはいいかなっていう感じです。以前Twitterでプレイヤーの方があげたスクショが何千リツイートかされて。偶然そういうのがあったのはすごい助かりました。なのでなるべくフックになるものを提供しておこうっていうところですね。自分からやるのではなく、そのためのフックを用意しておくっていう話。

池和田

なるほどね。やっぱりなかなか狙ってできるものではないっていう話でもあるわけで。

大貫

基本的に知ってもらった後は好みの問題で、当然受けつけない人もいますが母数はデカい方がいいかなとは思っています。特にWiiUで出したことで「インディーゲーム? 何それ?」みたいな人に届いたのが一番デカいかなと。大人でも「よくわかんねぇや」っていう人はいるし、子どもでも楽しんでくれる人はいるので、あらかじめ選別しちゃうと僕の場合はあまりよろしくないかなと思っています。

一條

そこは大貫さんのゲームが「システムからのアプローチ」でゲームを作ってるところに、若干関連しているかなと思います。だれでも楽しめる。

大貫

触ればどういうゲームかわかるので、僕の場合はあまり制限してないです。

池和田

不幸なミスマッチが起きにくいんですね。

一條

僕はその「不幸なミスマッチ」がかなり起きやすい。遊んでくれた人を不快な気持ちにする可能性のある作品性があると思っています。たとえるなら、スプラッタホラー映画をみて楽しめる人とそうでない人、みたいな感じで、人によっては大爆笑コンテンツなんだけど、そうでない人は「こんなもの見せられて最低だ」みたいな。この辺りは作品によりけりでしょうね。

仕事以外で大切な時間はありますか?

大貫

会社員時代の同期とボルダリングって壁登ったりとかは、今でもしていますね。数少ない気晴らしというか。あとは一人旅とか。

一條

いいですね。

大貫

この前だと広島とか。呉港でいろいろ船見たりとか。暖かい時期は魚釣りもたまに行くかなー。

池和田

やっぱり魚にちなんだところだ(笑)。

大貫

一石二鳥なんで。別に山登りとかでもいいんですけども。

一條

僕は「仕事以外の時間」を意識して作るようにしています。ゲーム開発をしていると仕事と趣味がすごく混ざりあうんですよ。完全に趣味というのはなくなっていて、これが結構マズイんです。常に何パーセントか仕事のことを考えちゃう。なので、全くゲームと関係ない趣味や、それにまつわる人のつながりを大事にしています。僕は趣味としてDJをやっていて、80年代洋楽ポップスのレアレコード集めを「ゲームから遠い趣味」として守っています。これにまつわる友達はゲーム関連の人脈とは全く関係ない人たちなんです。そうやって気晴らしをしていないと、逃げ場がなくなるんですよね。

池和田

わかります。

一條

これは他の人にもおすすめしたいことですね。ゲームに関わる友達と遊んでいると、結局「そういえばあの開発どうなってるの?」みたいな話になるじゃないですか。あとアーティストの友達と旅行に行って写真撮ると「いいテクスチャー素材だ」とか、海を眺めながら「遠くの街の描画どうやってやっているんだ?」「LODが利いてる」「カリングが」みたいな会話になったり。

大貫

ひどすぎる(笑)。

一條

それは冗談ですけど。そういうのは気をつけています。

池和田

うんうん、映画行っても仕事視点で見てしまうよね。「これAfter Effectsのあのプラグインかな」とか。意識しないと逃げられない感じ、ありますよね。

一條

この記事を読んでいる人に呼びかけたい話ですね。ゲームと関係ない趣味を一本持っておきましょう!

最近注目してるゲームやゲーム開発者は?

池和田

国内外問わずですね、これは。

一條

いろいろあるかなぁ。

池和田

じゃあ一條さんから行きます?

一條

まずは『Strange Telephone』です。いろいろ革命的な点があって、一つはああいう独特の世界観のゲームを個人で作って500円という価格でリリースして、かなりヒットしたこと。有料アプリを買ってくれる市場もあるんだ、ということを知らしめたと思うんですよ。長く開発に時間をかけながら、本人の理想を探っていってついにリリースする、というコンセプトが素晴らしいなと。

Strange Telephone

2Dドット絵で描かれる、横スクロールアドベンチャーゲーム。不思議な世界に閉じ込められた少女「ジル」は、電話機の「グラハム」とともに、この世界を脱出するための鍵を探す冒険をする。

App Store Google Play

大貫

僕は昨日遊び始めたんですけど、『Diluvion』。タイトル読みにくいんだけど、潜水艦のゲームです。これもUnityなんですけど、2Dパートでクルーを集めながら3Dアクションで潜水艦を操作していくみたいなのがあって、PVに戦艦大和を背負ったヤドカリが出てきたりとか、わりと世界観的に大好きなんです。日本でも実況動画を見つけて。グラフィックもすごいきれいですよ。

一條

実況の人に人気があるってのは強いですよね。

池和田

なるほど、画面見ると確かに実況したくなる感ありますよね。

一條

ほかにも、中小規模の開発会社さんが自社でオリジナルのダウンロード専売タイトルをリリースする流れがまたちょっと盛り上がってきたなと思っていて。1つはアークシステムワークスが出している『サバクのネズミ団』。あともう1つはSUSHI TYPHOON GAMESの『クリーピング・テラー』。これが『トワイライトシンドローム』や『クロックタワー』の流れを継ぐ2Dスクロールホラーゲームで、よくぞこの方向性のタイトルを復活させてくれた!と感動しました。

池和田

確か3DSだよね。

一條

横スクロールのホラーって少し失礼な話、失われたジャンルみたいな感じだったので。もしかしたら僕も、『Back in 1995』を作っている途中で、何か別のことが起きたら同じような作品になってかもしれない、という自分の”if”を見た感じでした。

大貫

失われたジャンルで思い出した。僕、PS2時代だと『ウォーシップガンナー』が好きなんです。戦艦とか船を造って戦うゲームなんですけど、最近、なんかマインクラフトっぽいブロックなんですけど、めちゃくちゃ凝った船を造れるゲームがあって。『From the Depths』っていうんですけど。ニコニコとかで話題になって、造船部みたいな感じが充実しているんですけど。すごいのが、普通にスクリューをつけましょうとかじゃなくて、ここにエンジンを置いてから、ここをクランクシャフトでつなげて、こうやってどーのこーのって内部のメカからつくらせるんですよ。めちゃくちゃ難しいんです。

From the Depths

船、飛行機、宇宙船に至るまで、あらゆる兵器を建造することができるクラフト・戦闘シミュレーションゲーム。Steam Storeでのリリースは2014年8月だが、2017年6月現在もユーザーによる攻略wikiが更新され続けており、コアなファンを獲得していることがうかがえる。

Steam Store

一條

『Kerbal Space Program』みたいな感じですね。これは宇宙船のゲームですが、ちゃんと作らないと、どうしようもない船ができる。

池和田

コアゲーマー向け?

大貫

コアゲーマー向けなんですけど、なんか日本でのウケがやたらいいらしくて、すごいワークショップとかに自分の造った船とかが。で、船だけじゃなくて、空を飛ぶものもいろいろ造れたりして、めっちゃ自由度が高いんです。

一條

いいですね。クラフト要素やりたいな。作るのはすっごい大変だけど。

後編に続きます!

プロフィール

池和田 有輔

フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。

ACE OF SEAFOOD

Nussoft
  • TPS
  • アクション
  • ファイティング

プラットフォーム

  • iOS
  • Android
  • Windows
  • Wii U

言語

  • 日本語
  • 英語
  • appstore
  • googleplay
  • steam
  • nintendoeshop

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